動画と静止画転送を組み合わせた

第97回日本皮膚科学科総会(大阪)インターネットカンファにて発表


目的:高速回線を利用した双方向TV会議システムや衛星回線を使用したハイビジョンなど高度な器材を投入しての遠隔地医療は各科領域で試みられているが器材や設備の面で少人数の施設や、過疎地医療に利用するには実用的でない。我々の目的はより現実的システムの構築を目指し電話回線とパーソナルコンピュータ、モデム、デジタルカメラがあれば遠隔地における画像診断補助の目的が達せられる事を示すことである。現在大阪大学医学部皮膚科学教室のサーバーに遠隔地画像支援システムを置きテストを行っている。このシステムはHTMLで書かれた文書を直接掲載者がFTPで書き込むか管理者に文書と写真を電子メールで送るかの方法を採っている。このシステムによって開業医、勤務医、大学または全世界と症例の検討が行われ医療の質の向上に寄与すると思われる。今回はこのシステムを一歩進めた画像診断支援システムを学会会場に設営して実演する。遠隔地からの情報は音声と動画(双方向リアルタイム画像)、静止画を組み合わせたシステムでHTML化した静止画像と比べ得られる情報は格段に増えた。この方法により皮膚科専門医以外の医師への皮膚科的支援を可能にすると思われる。



受信側画面
以下の画像は松野町中央診療所より兼光院長が実際の患者を前にNTTパーソナルTV会議システムPhoenixを使い動画と音声で会場(大阪リーガロイヤル)側に説明後、土居講師(大阪大)の指示により静止画をJPEG圧縮し転送したものである。圧縮ファイルは30〜40KBで転送時間は静止画のキャプチャ→画像圧縮→ファイル転送を含めて30秒程度であった。このキャプチャ、圧縮、転送プロセスは我々の独自開発したプログラムを使用した。会場内には大型液晶プロジェクタおよび17インチCRT会場内モニタ画面を設置した。
写真は、手を加えることなく全て送られてきた画像をそのまま掲載した
松野町国民健康保険中央診療所 兼光望院長の挨拶
こんにちは。松野町国民健康保険中央診療所の兼光です。右におられるのが愛媛大学の新盛先生、左手におるのが当診療所の整形外科医土居医師です。松野町は只今紹介して頂いた様に愛媛県の南西部、高知県との県境の中山間地の町です。人口約5000人、高齢者比率27%の高齢化の進んだ農林業を基幹産業とした町です。当診療所は日本最後の清流として有名な四万十川の支流の一つである広見川の河畔に平成7年11月に開設した入院ベット19床を持つ有床診療所です。内科医2人整形外科医1人の常勤医師3人でこの中央診療所そして町内にある3つの出張診療所での診療ならびに町内の保健事業に従事しております。町内には他に医療機関はありません。外科や耳鼻科については以前から、そして眼科や泌尿器科については昨年の4月より隣町の当地より約5〜6キロメートルにある県立病院に受診する事が出来ます。しかし皮膚科の疾患の患者さんについては自家用車なら片道30分JRや市営バスなど公的公共機関を使えばおよそ片道1時間かかる宇和島市に出なければなりません。足腰の悪い高齢者にとって公的交通機関を利用することは大変むずかしく自家用車で通院できる患者さんも限られています。日常の診療の中で苦慮する患者さんについてこういったインターネットを利用して専門の先生に相談できるシステム作りが出来ないものかと以前より思っていました。この度、愛媛大学皮膚科学教室のご厚意によりこういった機会を与えて頂いたことを大変感謝しております。今後はこの機会を生かし更に愛媛大学のご協力を頂き、在宅医療で搬送の難しい患者さんの疾患について皮膚科だけでなく他の疾患についてもデジタルカメラやビデオで撮影した資料を元に専門家の先生に相談させて頂く取り組みをしていきたいと思います。

会場:では患者さんをご紹介して頂きます。

院長:56歳の男性、10年前の46歳ごろより肘関節、手掌、手背に湿疹が出現しアトピー性皮膚炎の診断のもとにステロイド系の外用剤を使用していた。手には皮下出血、色素沈着を認める。最近肘関節伸側に皮疹が出現し真菌性の皮疹だろうとし言うことで外用剤を塗布したが改善せず当医院を受診した。

 

松野町国民健康保険中央診療所より動画と共に送られた静止画
   

   
上記サムネール画をクリックすると30-40KB(630*480)のJPEG画像が送られてきます

 

会場:この皮疹はどのくらい続いているのですか?
患者:10年ぐらいです

会場:季節的な変化は?
患者:特にありません。一年を通じてこの様です。

会場:皮がめくれた様な所見がありますが最初は水疱の様なものがありましたか?
患者:その通りです。

会場:痒みを伴ういますか?
患者:強い痒みがあります。

会場:これは手だけですか?
患者:足にもあります。足については以前水虫と言われた。

会場:それは皮膚の一部を削り顕微鏡で菌を検査しましたか?
患者:いいえ

会場:ステロイドを使用していますがアトピーの傾向があるようですがステロイドを使用していますか?
院長:プロピオンサンクロベタゾールを使用しています。

会場:水虫の薬は使用していますか?
患者:約1週間程度前から抗真菌剤を使用しているが効果はありません。

会場:手背側には赤味が強い様です。色素沈着、血管拡張傾向がありますがステロイドは使用していますか?
患者:全身にステロイドを塗る際、手にも塗りました。

会場席より:この人の職業は
患者:建設会社ですが営業をやっています。コンクリートなどは15年前に触っていましたが現在は触っていません。

 1998.6.5 K.N


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この遠隔地診断支援システムの実演の為にご協力して頂いた松野町兼光院長、芝事務長、市立宇和島病院皮膚科緑川先生、愛媛大学皮膚科、大阪大学医療情報部、大阪コンピュータ工業および発表前日深夜から早朝まで徹夜で設営にご協力頂いたリーガロイヤルホテルの音響係、コングレの皆様に深く御礼申し上げます。